日本経済新聞社はNEEDS(日経の総合経済データバンク)を使い全国792市と東京23区の2019年度決算(普通会計、速報)を調べた。「借入金」にあたる地方債残高は政令指定都市合計で18兆円近くに及び、20市で全市区の36%を占めた。最多は横浜市で2兆3926億円だった。
実感しやすくするため地方債残高を住民1人当たりでみると政令市は65万円だった。他の市区と比較すると、財政基盤が弱い場合も多い人口10万人未満の528市区でも48万円で、政令市は突出する。規模が大きいほどスケールメリットが働き借入負担も小さい他の市区の傾向と一線を画す。
政令市の借入負担が際立つ背景について横浜市の財政担当者は理由を2つ挙げる。1つは大都市ならではの財政需要があるからだという。地下鉄や環状高速道路、国際港湾など特有のインフラが必要になるため、市債を活用し整備するハード事業が大きくなりがちだ。横浜市は19年度、環状高速道横浜北西線の整備が大詰めに入っていた。
もう1つは国が地方交付税の多くを小さな市町村に振り向け、政令市には借金である臨時財政対策債を割り当ててきたためだ。臨時財政対策債は元利償還を国が地方交付税で将来措置すると約束しているとはいえ、政令市の借入負担が一層膨らむ結果になっている。
815市区を地方債残高の多い順に並べるとトップ10は横浜市などすべて政令市だ。一方、少ない順では東京23区が目立つ。政令市と東京23区で歳入の内訳を比較すると、地方債の発行で賄っている割合である起債依存度が東京23区の1%程度に対して政令市は10%弱。同じ大都市でありながら違いが大きかった。
東京23区長でつくる特別区長会によれば23区の起債依存度が低いのは上下水道や消防などハード整備が必要な都市機能を東京都が一括して手掛けているためだという。地方交付税の不交付団体であり、起債をなるべく活用しないという財政規律が働く面もある。
一方、政令市長でつくる指定都市市長会は政令市制度に課題があるとみて不満をあらわにしている。政令市では都市間競争もあって財政需要が増しているのに税制上の十分な措置がないと分析。地方消費税と法人住民税の配分拡充や大都市特例税制の創設などを国に要望している。
道府県の権限や税財源をすべて政令市に移して完全に独立させる「特別自治市」の早期実現も求めている。指定都市市長会の林文子会長(横浜市長)は16日、坂本哲志地方創生相と武田良太総務相に「特別自治市」など大都市制度の議論を加速するよう要望する提言を手渡した。