企業のESG(環境・社会・企業統治)情報開示を巡り、国内外の基準作りが急ピッチで進んでいます。非財務情報への市場の関心は強く、企業はESGの3分野それぞれで開示を進めつつ課題解決に取り組み、価値向上につなげようとしています。日本経済新聞社の経済データバンクサービス「日経NEEDS」が提供する「日経ESGデータ」を使えば、開示情報を網羅的に把握し、分析と戦略づくりに活用できます。

基準作り 急ピッチ

 ESG対応を進める企業への投資が広がっています。世界持続的投資連合(GSIA)によると、2020年の世界のESG投資額は35兆ドルと4年で55%増えました。6月の株主総会では環境対応を求める株主提案が目立ちました。

 大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)が19カ国・320の機関投資家を調査したところ、74%がESGへの取り組みが遅れている企業への投資をやめる可能性が高まっていると答えました。

 ウクライナ危機に伴う資源価格高騰で、温暖化ガス(GHG)排出増加を容認する動きが高まるとの見方もありましたが、ESG対応を求める投資家の声は拡大。制度面も基準作りが進み、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は開示基準を年内にまとめます。

 コーポレートガバナンス・コードは東京証券取引所プライム市場の上場企業に、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)と同等の開示を求めています。金融庁は有価証券報告書に気候変動リスクなどサステナビリティー(持続可能性)情報の記載欄を新設予定です。

 日経平均株価を構成する225銘柄のうち統合報告書を21年に発行した企業は86%に達しましたが、今年もすでに23%が出しています。日経金融工学研究所(東京・千代田)は企業の気候変動リスク開示を支援するサービスを始めました。

基礎情報もとに動き分析

 企業が公開するESG情報は利用しやすいとはいえません。統合報告書、サステナビリティー報告書、ホームページなど開示先が分かれ、情報にたどり着くだけで一苦労です。数値の単位もまちまちで、テキスト情報も形式は様々です。

 日経ESGデータは多種多様なソースの関連情報を網羅。GHG排出量や人権への取り組みなど100項目を収録します。数値データを統一した単位で収め、取り組み方針などのテキスト情報を整理。出典も明記しています。ユーザーは情報収集に費やす労力を軽減できます。

 収録企業数は8月末に670に達しました。日経ESGデータの利用は、同業他社との比較分析や取り組み事例のチェック、株主対応やIRコンサルティング業務、学術研究などにも広がっています。

 データで企業のESG対応をみてみましょう。「E」は「GHG総排出量削減率」、「S」は「女性役員比率」、「G」は「独立社外取締役比率」と、収録率の高い項目で検証します。2020年度分を使い、GHG削減率は19年度分と比べます。

 目安となる目標値を設定します。GHG排出量は日本経済新聞社が22年5月から公表する「日経平均気候変動1.5℃目標指数」全体の削減量に基づき、前年度比7%以上削減としました。女性役員比率は12%以上、独立社外取締役比率は3分の1以上としました。

 三菱重工業は独立社外取締役比率が50%となりました。丸井グループはGHG排出量が30%減り、女性役員比率が30%でした。新生銀行は女性役員比率が40%で独立社外取締役比率が71%。独立社外取締役比率では野村ホールディングスが60%、アシックスが63%でした。

 データ全体の傾向はどうでしょうか。19年度から20年度にかけてGHG総排出量削減率が7%を上回ったのは456社中45%でした。20年度に女性役員比率が12%を上回ったのは539社中47%、独立社外取締役比率が3分の1を上回ったのは593社中73%でした。

 19年度から20年度にかけ、GHG総排出量削減率が7%を上回った207社のうち、21年12月末から22年6月末に株価の動きが日経平均を上回ったのは67%。削減率が7%に達しなかった249社の60%より高く、GHG排出量削減の姿勢が市場の評価を得やすかったと推測できます。